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大阪地方裁判所 昭和43年(行ウ)867号 判決 1976年10月05日

原告 木下トキエ

被告 西淀川税務署長

訴訟代理人 宝金敏明 中山昭造 ほか三名

主文

被告が昭和四二年九月六日付でした原告の昭和三九年分所得税につき総所得金額を一三五万二、八一九円とする更正処分(ただし、裁決により一部取消されたのちのもの)のうち、一三〇万四、〇九二円を超える部分を取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一  請求原因(一)(原告の営業と本件更正処分及び裁決の存在)については当事者間に争いがない。

二  本件更正処分の過大認定の違法について

原告が本件係争各年分の所得税の調査に際し、事業に関する帳簿書類を呈示しなかつたことは当事者間に争いがなく、本件においては右各年分の総所得金額を実額で明らかにしうる資料がないから、推計によつてこれを算定するほかない。

(一)  売上金額

1  昭和四一年分 四九六万八、七五一円

(1) めし類売上金額 三六八万六、九〇四円

<1> 盛めし売上金額 三五四万五、一〇〇円

<証拠省略>によれば、原告方におけるめし類の販売においては中盛めし及びおかず一品がほとんどあることが認められるので、右中盛めし及びおかず一品の売上単価に精米の仕入数量から推計して得た中盛めしの年間販売数を乗じて得た金額をもつて盛めし売上金額と考えるのが相当である。

(i) 盛めし及びおかず一品の売上単価

盛めしの売上単価が五〇円であることは当事者間に争いがなく、<証拠省略>によれば、おかず一品の売上単価は平均四〇円であることが認められるから、その合計は九〇円となる。

(ii) 年間精米仕入数量 七、四七六キログラム

原告が有限会社千船米穀店から精米を仕入れていたことは当事者間に争いがなく、<証拠省略>によれば、年間精米仕入数量は七、四七六キログラムであることが認められる。

(iii) 自家消費量 七九八キログラム

一人一食当りの消費量が一四〇グラム(一合)であること及び原告、夫喜一郎、長男喜博、四女晴子が自家消費者であることは当事者間に争いがなく、いずれも<証拠省略>によれば、原告の二女喜佐代は昭和三九年一一月二四日岡崎忠夫と、三女幸美は昭和四〇年一二月二七日藤本利秋とそれぞれ結婚したが、両名は結婚後も毎日午前中から夕方まで原告方に手伝いに来ており、原告方で昼食と夕食をとつていたことが認められる(但し、幸美については、<証拠省略>によれば、昭和四一年一一月一一日長男利一が出生したため、その産前二〇日及び産後は手伝いに来ていなかつたことが認められる)から、自家消費量は次のとおり合計七九八キログラムとなる。

一四〇グラム×三食×三六五日×四人=六一三・二キログラム

一四〇グラム×二食×三六五日=一〇二・二キログラム(喜佐代分)

一四〇グラム×二食×二九五日=八二・六キログラム(幸美分)

(iv) 盛めし販売数 三万九、三九〇食

<証拠省略>によれば、中盛めし一杯の米の量は一六八グラム(一・二合)であることが認められるから、原告方においては、(ii)の精米仕入量から(iii)の自家消費量を差引いた六、六七八キログラムを右一六八グラムで除して得た三万九、七五〇食を営業用として炊飯することになる。

ところで、<証拠省略>及び弁論の全趣旨によれば、原告方では年間を通じて一日平均一升のめしが売れ残るが、腐敗しやすい夏期三か月は、右売れ残り分を焼飯にしたり、或いは自家用に消費してもなお一日平均中盛めし四食分(四・八合)は廃棄せざるをえない状態であることが認められる。この点につき、被告は、仮りに売れ残りを廃棄することがあつたとしてもそれは夏期三か月について一か月平均四升(一日約一・三合)程度である旨主張し、<証拠省略>中には右主張に沿う部分もあるが、右部分は前掲証拠に照しにわかに信用することができず、他に被告の右主張を認めるに足りる証拠はない。

したがつて、盛めし販売数は、前記三万九、七五〇食から廃棄分として一日四食の割合で九〇日分、すなわち三六〇食を差引いた三万九、三九〇食となる。

<2> みそ汁売上金額 一四万一、八〇四円

<証拠省略>によれば、休日以外の一日当りの炊飯数は一六〇食、みそ汁販売数は三〇杯で、みそ汁一杯の売上単価は二〇円であることが認められる。したがつて、みそ汁売上金額は、前記盛めしの年間販売数(三万九、三九〇食)に前記一日当りの炊飯数(一六〇食)に対するみそ汁の販売数割合一八パーセントを乗じてみそ汁の年間販売数を求め、これにみそ汁の単価二〇円を乗じて得た金額一四万一、八〇四円となる。

(2) 麺類売上金額 八五万九、二〇〇円

原告が<万>製麺所から一万七、九〇〇玉のうどんを仕入れていたこと及び麺類の各品目の単価が別表(三)記載のとおりであることは当事者間に争いがない。しかし、その平均売上単価を六〇円とすることについては、これを相当と認めるに足りる証拠がないから、この点に関する被告の第一次主張は採用できない。そして、これを原告主張のとおり四八円とすることについては被告の予備的主張において当事者間に争いがないから、麺類売上金額は、前記仕入数量に右金額を乗じた八五万九、二〇〇円となる。

なお、原告は麺類についても売れ残りが生じ、三月から一〇月にかけてはこれを廃棄せざるをえない旨主張し、証人木下喜博は右主張に沿う証言をしているが、本件全証拠によるもその廃棄割合については不明であるから、右主張は採用できない。

(3) 飲料水売上金額 一五万〇、三〇〇円

原告が有限会社福菱食品工業所から飲料水を仕入れていたことは当事者間に争いがなく、<証拠省略>によれば、右仕入数量及び各品目の売上単価は別表四記載のとおりであることが認められるから、飲料水売上金額は同表記載のとおり一五万〇、三〇〇円となる。

(4) ビール売上金額 二七万二、三四七円

原告が大河内酒店からビールを仕入れていたことは当事者間に争いがなく、<証拠省略>によれば、その仕入単価は一一五円、売上単価は一四五円であることが認められ、さらに、<証拠省略>によれば、原告は大河内酒店からビールのほか調味料も仕入れており、その総仕入金額が年間三六万円であること及びビールの仕入割合はその六割であることが認められる。この点につき被告は、ビールのみの仕入金額が年間三六万円であると主張し、<証拠省略>にはこれに沿う部分もあるが、右は<証拠省略>に照らしてにわかに信用できず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。したがつて、ビールの売上金額は二七万二、三四七円となる。

2  昭和四〇年分 四五二万〇、九六九円

(1) めし類売上金額 三一九万六、二五二円

<1> 盛めし売上金額 三〇七万三、三二〇円

算定方法は昭和四一年分と同様である。

(i) 盛めし及びおかず一品の売上単価

盛めしの売上単価が五〇円であることは当事者間に争いがなく、<証拠省略>によれば、おかず一品の売上単価は平均四〇円であることが認められるから、その合計は九〇円となる。

(ii) 年間精米仕入数量 六、六六四キログラム

原告が有限会社千船米穀店から精米を仕入れていたことは当事者間に争いがなく、<証拠省略>によれば、年間精米量は六、六六四キログラムであることが認められる。

(iii) 自家消費量 八六六、六キログラム

一人一食当りの消費量及び原告、喜一郎、喜博、晴子が自家消費者であることは当事者間に争いがなく、前記のとおり、二女喜佐代については昭和三九年一一月二四日の結婚後も原告方へ手伝いに来て昼食と夕食をとつており、<証拠省略>によれば、四女幸美については昭和四〇年一二月二七日の結婚まで原告方で生活していたことが認められるから、自家消費量は、原告、喜一郎、喜博、晴子及び喜佐代分合計七一五、四キログラム(昭和四一年分に同)に幸美分一五一・二キログラム(一四〇グラム×三食×三六〇日)を加えた八六六・六キログラムとなる。

(iv) 盛めし販売数 三万四、一四八食

昭和四一年分と同様にして算出した営業用炊飯量三万四、五〇八食から廃棄分三六〇食を差引くと三万四、一四八食となる。

<2> みそ汁売上金額 一二万二、九三二円

昭和四一年分と同様にして算出すると一二万二、九三二円となる。

(2) 麺類売上金額 八九万〇、八八〇円

原告が<万>製麺所からうどん玉を仕入れていたこと及び麺類の各品目の単価が別表(三)記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、<証拠省略>によれば、右仕入数量は一万八、五六〇玉であることが認められる。そして、昭和四一年分と同様右仕入数量に平均売上単価四八円を乗ずると八九万〇、八八〇円となる。なお、廃棄分に関する原告の主張を採用しえないことは、昭和四一年分と同様である。

(3) 飲料水売上金額 一五万九、五七〇円

原告が有限会社福菱食品工業所から飲料水を仕入れていたことは当事者間に争いがなく、<証拠省略>によれば、右仕入数量及び各品目の売上単価は別表(四)記載のとおりであることが認められるから、飲料水売上金額は同表記載のとおり一五万九、五七〇円となる。

(4) ビール売上金額 二七万四、二六七円

原告が大河内酒店からビールを仕入れていたことは当事者間に争いがなく、<証拠省略>によれば、同店からの総仕入金額は年間三六万円、ビールの仕入割合はその六割であること及び九月までは仕入単価は一一〇円、売上単価は一四〇円、一〇月以降は昭和四一年と同であることが認められるから、ビールの売上金額は次のとおり二七万四、二六七円となる。

10月~12月分……216,000×(3/12)×(145/115)= 68,086

1月~9月………216,000×(9/12)×(110/140)= 206,181

3  昭和三九年分 四一九万七、七二五円

(1) めし類売上金額 二八二万二、三三六円

<1> 盛めし売上金額 二七〇万〇、八〇〇円

算定方法は昭和四一年分と同様である。

(i) 盛めし及びおかず一品の売上金額

<証拠省略>によれば、盛めしの売上単価が四五円であること及びおかず一品の売上単価は三五円であることが認められるので、その合計は八〇円となる。

(ii) 年間精米仕入数量 六、六三六キログラム

原告が有限会社千船米穀店から精米を仕入れていたことは当事者間に争いがなく、<証拠省略>によれば、年間精米量は六、六三六キログラムであることが認められる。

(iii) 自家消費量 九〇三・八キログラム

一人一食当りの消費量及び原告、喜一郎、喜博、幸美、晴子が自家消費者であることは当事者間に争いがなく、<証拠省略>によれば、二女喜佐代については昭和三九年一一月二四日の結婚まで原告方で生活していたことが認められるから、自家消費量は次のとおり九〇三・八キログラムとなる。

一四〇グラム×三食×三六五日×五人=七六六・五キログラム

一四〇グラム×三食×三二七日=一三七・三キログラム(喜佐代分)

(iv) 盛めし販売数 三万三、七六〇食

昭和四一年分と同様にして算出した営業用炊飯量三万四、一二〇食から廃棄分三六〇食を差引くと三万三、七六〇食となる。

<2> みそ汁売上金額 一二万一、五三六円

昭和四一年分と同様にして算出すると一二万一、五三六円となる。

(2) 麺類売上金額 九一万九、三四〇円

原告が<万>製麺所からうどん玉を仕入れていたこと及び麺類の各品目の単価が別表(三)記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、<証拠省略>によれば、右仕入量は二万一、三八〇玉であることが認められる。そして、右仕入数量に平均売上単価四三円(昭和四〇年から盛めし一杯の売上単価が五円値上げされたことに伴なつて、麺類の売上単価についても昭和四〇年分から五円差引くべきことは被告の自認するところである)を乗ずると九一万九、三四〇円となる。なお、廃棄分に関する原告の主張を採用しえないことは、昭和四一年分と同様である。

(3) 飲料水売上金額 一八万一、一四〇円

原告が有限会社福菱食品工業所から飲料水を仕入れていたことは当事者間に争いがなく、<証拠省略>によれば、右仕入数量及び各品目の売上単価は別表(四)記載のとおりであることが認められるから、飲料水売上金額は同表記載のとおり一八万一、一四〇円となる。

(4) ビール売上金額 二七万四、九〇九円

原告が大河内酒店からビールを仕入れていたことは当事者間の争いがなく、<証拠省略>によれば、同店からの総仕入金額は年間三六万円、ビールの仕入割合はその六割であること及び仕入単価は一一〇円、売上単価は一四〇円であることが認められるから、ビールの売上金額は二七万四、九〇九円となる。

(二)  売上原価及び一般経費

<証拠省略>を総合すると、大阪国税局長において、大阪国税局管内全税務署八三署のうち、大蔵省組織規定上種別「A」とされている四三税務署管内の大衆食堂経営者の本件係争年分に対応する年の所得の実額調査を行なつた事例(青色申告者については帳簿につき実地調査、白色申告者については収支実額調査を行なつたもののうち、年の途中で開廃業したもの、他の業種を兼業してこれらの収支実額の区分計算ができないもの、収集時において不服申立等で所得金額が確定していないものなど特殊事情を有する納税者を除外し、その余を全部収集したもの)について所得率を収集した結果から、平均所得率を算出し、これから逆に売上原価及び一般経費率を算出すると、昭和四一、四〇年分が各六六パーセント、昭和三九年分が六八パーセントとなることが認められる。

そして右調査結果は、その調査の対象が大量であること、実額調査をした納税者に限定されていること、特殊事情のある納税者が対象から除外されていること、資料収集過程において課税庁側の恣意が介入する余地が少いこと等の諸点を考慮すると、所得推計の資料とするに足る客観性を具備しているものといわなければならない。もつとも、前掲証拠によれば右調査対象者の個々の営業規模や所得率には多少の格差があることが認められるが、多数の調査対象者を平均することにより個々の対象者についての多少の格差は平均値に包摂されるものであり、また原告について右平均値の適用を不当とすべき特殊事情が存在すると認めるに足りる証拠はない。

そうすると、原告の売上原価及び一般経費は、右平均経費率をもつて推計するのが相当であり、その結果は別表(二)B欄記載のとおりである。

(三)  減価償却費(建物) 各年二万四、〇〇〇円

別表(二)A欄記載の金額については当事者間に争いがない。原告は建物以外の営業用諸設備についての減価償却費としてさらにその金額を控除すべきである旨主張するが、右はすでに認定した一般経費に含まれていると考えるべきであるから、右主張は採用しえない。

(四)  支払利子

別表(二)A欄記載の金額については当事者間に争いがない。

(五)  専従者控除

所得税法五七条三項(改正前所得税法一一条の二第三項)は事業専従者控除について規定しているが、同条五項(改正前所得税法二八条)によれば、居住者の所得計算上必要経費として一定の額の専従者控除が認められるには、確定申告書に同条三項の規定の適用を受ける旨及び同項の規定により必要経費とみなされる金額に関する事項の記載がなければならないと定められている(改正前所得税法二八条によれば、確定申告書に控除に関する事項の記載がなければならないと定められている)ところ、右記載の存在は専従者控除の法定要件であつて、税務訴訟における所得額認定に際して右法定要件を無視することができないのは勿論である。そして、原告において昭和三九・四〇年分の確定申告書に専従者控除に関する事項を記載していないことは当事者間に争いがないから、原告には右両年分における専従者控除の適用はないといわなければならない。

また、昭和四一年分について原告の長男喜博が事業専従者であることは当事者間に争いがない。そして、原告はさらに同人の妻静江も事業専従者である旨主張するが、事業専従者控除の規定の適用上、右静江が原告の親族に当るか否かは同人が法律上原告の親族となつた日、すなわち法律上の婚姻の日をもつて基準とするのが相当と考えられるところ、同女が喜博との婚姻の届出をしたのが昭和四二年一月九日であることは当事者間に争いがないから、同女は昭和四一年においては原告の親族には当らず、専従者控除の対象者には該当しない。

したがつて、同年分における事業専従者は喜博のみであつて、

その控除金額は別表(二)A欄記載のとおりと認められる。

(六)  以上によれば、原告の本件係争各年分の総所得金額は別表(二)B欄記載のとおりとなり、昭和四〇、四一年分についての更正処分は所得過大認定の違法はないが、昭和三九年分についての更正処分は一三〇万四、〇九二円を超える部分につき原告の所得を過大に認定した違法がある。

三  本件更正処分の手続的違法について

(一)  原告が白色申告者であることは当事者間に争いがないところ、白色申告者に対しては更正の理由付記は法律上要求されていないのであるから、本件更正処分通知書に理由の記載がないことは違法事由とならない。

(二)  原告主張の調査方法の不当及び他事考慮については、これを認めるに足りる証拠がない。

四  結論

以上の次第であつて、原告の請求は、昭和三九年分についての更正処分のうち総所得金額一三〇万四、〇九二円を超える部分の取消を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 奥村正策 辻中栄世 山崎恒)

別表<省略>

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